8. 就業規則でトラブルを回避するための対策ポイントは

人事裁量権などが会社にあることを明記すること

  就業規則は、経営目的を達成するため、雇い入れた社員を事業主の意向によって使用し、また多数の社員の統率と職場の秩序維持を目的として、事業主が一方的に定め社員に周知することによって効力を発揮します。

そのため、本来はどのように作成しても会社に有利にできているはずですが、わが国の労働関係法令が条文上過度に社員を保護し、さらに大企業と中小零細企業に適用の差を原則設けていませんので、法を順守して作成してしまうと社員有利と感じる中小事業主もいます。

社員を保護する法令といえども、事業主の人事裁量権、指揮命令、社員の職務専念などを否定するわけではありませんので、その点を就業規則に明確することが必要です。

雇用契約といえども、私人間で行う民法上の約束であることには変わりありませんので、労働の提供と賃金の給付を基本とした債権債務関係に不能や不足を生じることになれば契約違反となります。

社員が自分の感情や判断で上司の命令に背いたり、無断を含め遅刻欠勤が多い、定められた業務を処理する能力が極端に低いなど、雇用契約で定めた労働を提供できなければ、場合によって事業主は契約解除を含め必要な対応をしなければなりません。

一般的な契約と違い雇用契約の内容は、契約当事者が毎日事業所で顔をあわせ、その内容が実行されるため、大まかな部分で納得していても詳細なケースでの取扱いについて疑間を生じることがよくあります。

就業規則の解釈は会社にあることを明記すること

  就業規則に関しては、解釈権限はあくまで会社にあるため、疑問のあるケースについては会社が毅然として対応することが重要であり、社員が自分に都合よく解釈するものではありません。

就業規則を作成することで、社員の権利主張だけがまかり通り、会社の経営判断に影響を及ぼすことがあってはなりません。

経営者が、社員をどのように働かせるか、またどのような問題に対してペナルティを果たすかなどを統一的に規定することが、経営権としての就業規則と考えましょう。

会社が不利になる就業規則の規定例は

会社が不利になる就業規則の規定例についてみてみましょう(図表7)。

【図表7 会社が不利になる就業規則の規定例】

項目 説明
労働時間
就業時刻 9:00〜17:00
休憩 12:00〜13:00
出勤 月曜日〜金曜日

この会社の1週間の所定労働時間は35時間となります。
1日あたり1時間、 1週間5時間までは、時間外勤務による割増賃金は必要ありません。モデル規定を丸写しして、所定労働時間を超えた分をそのまま割増で支給するような規定にしてしまうと、それ自体が社員の既得権となり、作成後、法内残業の考え方にすることは困難になります。

昇給規定 「昇給は原則として、年1回、4月に実施する。ただし、やむを得ない事由のある場合には、昇給の時期を変更しまたは昇給をしないことがある」一誤解のある規定の例です。
基本的に昇給のあることを期待させる文章なので、条文見出し、条文とも「昇給」という文言を「改定」に変えるべきです。
また、人事考課の結果、本人の能力や勤務態度によっては、「降給」があることを明文化しておくべきです。
賃金等級表 給与の決定に賃金等級表を使用する会社は多くありますが、就業規則の一部としなければならない法的根拠はありません。
一昔前の賃金等級表では、年功と年齢に序列した設計となっており、そのまま使用すると毎年昇給させなければならなくなります。

「賃金は、年齢、勤続年数、学歴、職務遂行能力、職務内容、勤務成績を勘案して定める」と規定すればよく、決定の方法まで就業規則に記載する必要はありません。
事業主が内規として等級表を使うのは全く問題なく、これなら等級表を廃止することも自由にできます。
制裁規定 できるだけ多くの事例を具体的に列挙し、制裁や解雇がしやすい規定にすることがポイントです。
仕事中は何をすべきか、何が悪いことか、社会人として何をしてはいけないかなど、今の若者は基本的に教えてなければ何もわからないものと理解してください。
制裁規定の最後には、「その他、前各号に順する程度の行為があったとき」の記載を入れ予想外の問題行為にも対応できるようにします。

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